前回検討していた2階物件は、近隣を散策している際に偶然見つけた、まだ広く情報が出回る前の物件のようだった。
その場で電話したら、なんとその物件に大家さんがいらっしゃってその場で内見できたり、家賃条件も程よく、「これはいいぞ」と思える物件だったため、かなり前向きに検討していた。
しかし、慎重にデューデリジェンスを行う必要があった。
というのも、少し特殊な構造のため、内装工事や特に電気工事に想定以上の初期費用がかかる可能性があったからだ。
知り合いの電気屋に現調に来てもらったところ、いくつかの問題が明らかになった。
まず電源について、もともと1区画だった場所を2つのテナントに分けて貸し出す構造なので、自分が借りようとした区画側には元ブレーカーが設置されていなかった。
つまり外から電線を引き込み、既存テナントとは別の電源設備(ブレーカー)を整える必要がある。
これは本来、大家側の準備する設備だと思うが、現況貸しということなのでこちら負担だ。
次に、既存の天井カセット型エアコン(天カセ)の問題があった。
当初は「エアコンが既に付いているので、空調費用を抑えられる」と考えていた。しかし実際には、エアコンの設置位置がトランクルームのパーテーション配置を邪魔していた。
トランクルームでは、万一エアコンから水漏れした場合にお客様の荷物へ被害が及ぶことを避けるレイアウトである必要がある。また、年1回程度のクリーニングやメンテナンスも必要になる。
ところが、エアコンが個室のようなパーソナルスペース内に入り込むレイアウトでは、メンテナンス性も悪く、そもそもトランクルームとしてのレイアウトの自由度も低くなってしまう。
さらにいうと、その天カセエアコン自体がかなり古かった。これは、今は動いていても、故障すれば業務用エアコンの交換という、相当大きな出費が発生する。
しかも、経営がうまくいかず撤退する場合には、エアコンなどの設備は大家に残置物として引き渡す可能性が高い。つまり、古いエアコンを使い続ければ故障リスクを抱え、新品に交換すれば撤退時に資産として回収できない。
そのため、「既存設備があるから得」という単純な話ではなかった。
さらに、この物件は2階建ての2階部分だった。
店舗の天井が実質的に屋根になるため、真夏は1階よりエアコン効率が悪くなる。新たに壁掛けエアコンを設置する場合も、1台では厳しく、2台程度必要になるコスト増を指摘された。
こうして調べていくと、当初は見えていなかったコストとリスクが次々と出てきた。
しかし、完璧な物件はない。花小金井の店舗でも、店舗にはシャッターしかなくエントランスの壁やドアがなかったため、造作工事に費用がかかった経験がある。排煙窓のオペレーターを移動する費用もかかった。更に壁掛けエアコンを新設した。
そこで、「花小金井でかかった施工費を、今回の電気工事や設備工事に回す」と考えれば、ギリギリ事業として成立させられるのではないかと判断した。
電気屋の最終的な見積もりも、幸い想定していた範囲内に収まった。
そこまで考えて契約に向けて連絡したところ、すでに他の方に決まっていた。
苦労して乗り越えただけに、非常に残念で、正直かなり落ち込んだ。
しかし、冷静になって考えると、これは必ずしも悪い結果ではなかった。
今回の物件には、デューデリジェンスに時間と手間をかけた分だけ、かなり惚れ込んでしまっていた。本来は事業を成功させるためのデューデリだが、精査すればするほどそのかけた時間を惜しいと思ってしまうのだ。「デューデリの罠」とでも名付けようか?
精密な調査は、それ自体に判断を狂わせる罠が内在しているのだ!
しかし、本当にその物件が優良だったのかを改めて考えると、大きな弱点があった。
それは、エレベーターのない2階物件であること。こればっかりは、工夫ではどうにもできないのだ。
1階がコインパーキングだったこともあり、お客さまもご来店しやすいだろうと自分にとって都合の良いように解釈していた部分があったかもしれない。
しかし、もし近隣に競合他社が1階物件を出してきたらどうなるのか。その瞬間、この物件の競争力は大きく低下する可能性がある。
「この物件ならイケる!」と考えるのではなく、本来は「この物件より条件の良い競合が現れても、それでも事業として耐えられるのか」まで考えなければならなかった。
株式投資には「銘柄に惚れるな」という格言がある。
事業用不動産も同じで、物件そのものに惚れてしまうと、欠点を自分に都合よく解釈してしまう。
今回、物件を他人に取られたことで、強制的にその物件から切り離されることになった。そして、その結果、ようやく冷静に「物件」と「事業」を分けて考えられるようになった。
欲しいのは、その物件ではない。トランクルーム事業として成立する物件である。
そう考え直して気持ちを切り替えたところで、現在検討している物件を見つけた。
今回の経験で得られた最大の収穫は、最終的に良い物件を見つけたことではない。
物件に惚れ込む前に、需要 × 参入障壁 × 資金体力を確認し、さらに初期費用だけではなく、設備の故障・維持管理・撤退時の残置物・将来的な競合出現まで含めて考えることの重要性を実感できたことだ。
そして、最終判断の前には一度ゼロベースに戻り、「もし今この物件が消えてなくなったとしても、それでもこの市場・この事業に参入したいか?」と自問する。
今回の2階物件を失ったことは残念だったようで、物件への執着を一度リセットし、より冷静な目で次の物件を見ることができるようになった。
負け惜しみではないですよ!(笑)

